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“ある日を境に、夫が突然お風呂に入らなくなったー。”▶︎▷▶︎【本紹介】水たまりで息をする/高瀬凖子

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📚水たまりで息をする/高瀬隼子


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【概要】
ある⽇、夫が⾵呂に⼊らなくなったことに気づいた⾐津実(いつみ)。夫は⽔が臭くて体につくと痒くなると⾔い、⼊浴を拒み続ける。
彼⼥はペットボトルの⽔で体をすすぐように命じるが、そのうち夫は⾬が降ると外に出て濡れて帰ってくるように。
そんなとき、夫の体臭が職場で話題になっていると義⺟から聞かされ、「夫婦の問題」だと責められる。
夫は退職し、これを機に⼆⼈は、夫がこのところ川を求めて⾜繁く通っていた彼⼥の郷⾥に移住。川で⽔浴びをするのが夫の⽇課となった。

そんな2人の結末とはー。
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【書評】
真剣に人を愛するとはどういうことなのか。
一組の夫婦の軌跡をゆっくりと鷹揚に描く。

結婚して何年か経てば、夫婦の間での最初の感情の高ぶりは消え、相手の知っている面にばかり固執するようになる。
まだほんとうは知らないことばかりなのに。
いや、未知の部分があったとしても、

毎日顔を合わせ、生活のルーティンが岩盤のように硬くなっていく日々の中で、“知っている”と錯覚するようになる。 
まだ知らないその人を、知ることのできる機会やアクションが減っていく。
この本は「お風呂に入らない」という小さなきっかけから夫の知らない一面を知ることになる。

誰しも、その人特有の苦しさと切実さを抱えている。
そこに目を向けない人の態度は、他人の痛みを自分のこととして引き受けず、都合の良いように切り離して痛みを忘れてしまいたいという、この社会の欲望とイコールに見える。

夫に「なぜお風呂に入らないの?」と問い、精神科に連れて行くことは、彼を他者化するようでできなかった。
ただ淡々と、臭う夫を受け入れ、彼が他人に忌避されていることに共に傷ついてきた。

この二人は、結婚という選択を積極的に選んだのではなく、その時に「結婚した方がいいから結婚をした」と語られる。
消去していった先にほのかに残る、離れがたさ。
でも、その残滓にこそ、それを愛と呼んでもさしつかえない感情が眠っているのではないか。

真剣に人を愛するとはどういうことなのか。
この物語で語られる愛なる形はとても淡々としていて、
そこに烈しさや内なる熱のようなものは感じられない。

積極的に求め、摑んで人を愛するのではなく、
その人の痛みが自分の痛みと同化してしまうくらい一緒にいて、許しあう関係。
一方的な正しさの規範を強要するような世界の中で語っている物語である。

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▽▼▽高瀬隼子さん作品▽▼▽