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“逃げる、引き返すって判断は、時に現状の何倍も勇気がいるんだー。”▶︎▷▶︎【本紹介】さいはての家/彩瀬まる

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📚さいはての家/彩瀬まる


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【概要】
人生の行き止まりから逃げ出した人々がたどり着く、とある郊外の古い借家──。
かりそめの暮らしの先に見えた世界を紡ぐ物語。

 

第1章
年上の妻子ある男性と駆け落ちした女性

第2章
人を殺したことを隠したまま、偶然再開した小学校の同級生と同居する若いヤクザ

第3章
かつて信者の娘の遺体を遺棄した新興宗教の元教祖

第4章
誰もが羨む縁談を捨てた姉とその妹

第5章
単身赴任をきっかけに妻と幼い息子から離れたことに安堵するサラリーマン

 

事情は違えど、登場人物たちは全員、怯え、疲れている。
そんな彼らが辿り着いた明るく密やかな家。
そこには陰影強く、光と影が描かれていた。
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🌱言葉

生きていかなければならない。逃げても、投げ捨てても、
転げ落ちても、まだその先で、生きることは続いていく。
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どうして俺の中に、俺を殺そうとする考えがあるんだ!

ああ、違う。当たり前だ。
俺は自分を絞め殺すような場の流れに、幾度となく同意してきた。自分がなにを感じているかなど考えず、周囲の正しさに自分の感覚を合わせてきた。
俺は、俺の味方をしていなかった。
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なんで逃げたことを許してもらわないといけないんだ?
逃げなきゃ死んじまうって思ったから逃げたんだろう。
あんただけじゃない、誰だってそうだよ。それを許さない、なんて言われても、普通に困るじゃないか。
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逃げる、引き返すって判断は、
時に現状維持の何倍も勇気が要るんだ。
そこで逃げられないで、死んじゃう人もいる。
ちゃんと逃げて、生き延びた自分を、褒めなよ、少しは。
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私は死ぬわけにはいかない。
まだ知らないたくさんのことを知るまで、まだ出会っていない人々と出会うまで、生きなければいけない。
いま、この広い空の下には、私と同じように泣いている人たちだっているだろう。
虐げられている人たちもいるだろう。
私はその人たちに伝えなければならない。
ここじゃない世界はいまここにあり、ここから広がっている。別の世界は存在する。
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逃げたのは、俺だけじゃなかった。
褒める、なんていうのは大げさだ。
だけど、必要以上に恥じなくても、いいのかもしれない。

俺は、そうゆう風にしか生きられなかった。
それが他人にどう見えても、俺は、俺だけは、
自分が生きることの見方をして、世界と交渉しなければならない。
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この連作小説の根底に流れるのは、人は傷つくという事実だ
当たり前だが人は傷つく。
他人の言葉にも傷つくし、自分の言動にも傷つく。
その傷に優劣はなく、もちろん意味もない。

やるべきことは、傷のジャッジではなく、
痛みを認め、声をかけることだけだと著者は言う。
いや、言ってはいないが、そうなのだろうと思う。
人の弱さを否定しない普通の人たちが、この物語を支えているからだ。
残酷で容赦なく、そして優しい物語である。

 

▽▼▽彩瀬まるさん作品▽▼▽