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“誰かの声の輪郭をなぞるのではなく、私は自分の言葉を持ちたいー。”▶︎▷▶︎【本紹介】声の在りか/寺地はるな

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📚声の在りか/寺地はるな


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【概要】
「こんなところにいたくない」
パート帰りの希和が見つけたのは、小学四年生の息子・晴基とそっくりの筆跡で書かれた切実なメッセージだった。
本人に真意を問いただすことも夫に相談することもできない希和は、晴基が勝手に出入りする民間学童『アフタースクール鐘』で働きはじめる。
マイペースな経営者・要や子どもたちに振り回されながらも希和はいつの間にか自分の考えを持たない人間になってしまっていたことに気付く。
周囲から求められるものでも、誰かからの受け売りでもない、自分自身の言葉を取り戻すためにひとりの女性が奮闘する、大人の成長小説!
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🌱言葉

あのこがピンクのハンカチを欲しがったのは
1年生の頃だった。
僕、これほしい。めずらしくきっぱりとした口調で言ってハンカチを差し出した。
「それは女の子用よ」

息子が納得したかはわからない。
あれは私の声だっただろうか。
世間の声、みたいなのだったかもしれない。
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いろいろ言う人は、いろいろ言いたい人なので
他人がなにをしていてもいろいろ言うし、
いろいろ言われないように自分の行動を制限するのは不毛である。
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背伸びしちゃって、
とおかしくなるが、もちろん口にはしない。
自分があの子くらいの歳の頃、親にそんなふうにからかわれるのがなによりも嫌だった。
鏡を見ていただけで「好きな男の子でもできたの」と笑われたり、
読んでいる本をのぞき込まれ、「そんな本あんなにはまだ早いんじゃない」と決めつけられたりするのも嫌だった。

あんなふうにはなるまい。
父や母が育ててくれたことを感謝はしているが、
それでも自分が育てられたように子を育てたいかと問われれば、否と答える。
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自分の言葉を持ちたい。
消えてしまったかもしれない自分の声を取り戻したい。
誰かの受け売りで話すのではなく、
周囲から求められている言葉をさがすのではなく、
誰かならこう言うだろうという
想像の輪郭をなぞるのではなく、声を発したい。
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私はこの子を支配できる。できてしまう。
少し怒っただけでこんなにも私をおそれるこの子。
私はこの子をどうにでもできる。
親の愛は無償かつ無限のものだとされているが、違う。
子どもから親に向けられる愛の方がだんぜん勝って、
それを使って親は子どもを簡単に支配することができる。

私が今、この子にむけているのは、本当に愛情だろうか、
ほの暗い支配欲求にかられているだけではないのか、
もしくはただの八つ当たりではないか、といつも頭の片隅で自分に問いかけている。
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簡単って、あなたにとっては、でしょう?
誰でも同じことが、同じようにできるわけじゃないんだから
できることは、「できるんだよ、すごいでしょ」と胸を張ればいいんだよ。
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他人に「つらい」と愚痴をこぼすと、
「あなたはがんばりすぎだ、肩の力を抜け」と言われる。
「あなたのやらなければいけないと思っていることの大半はやらなくてもいいことなんだよ」とも言われた。

むしろ、余計に落ち込んだ。
完璧な家事や育児を目指しているわけでもなく、
必要最小限のことしかしてない。
それをやらなくてもいいことだと決めつけられて、これ以上どうすればいいのかわからなかった。

相談できる相手がいないんじゃない。
相談した相手の返答によって返って追い詰められることが予測できてしまうから、なにも言えなくなってしまう。

善意の声かけが、かえって人を追い詰める事もある。
だからこそ、具体的になにか助ける手段はないだろうかと考える。
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あなたの植えた花の種子が、
思いもよらないところに運ばれ、そこで芽を出したら、
それはとても尊いことだと思うんです。
間接的にではあっても、あなたの言葉が、
たしかに1人の女の子の可能性を広げたんです。
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たったひとことで状況を一変させるような、
魔法みたいな強い言葉は、きっとこの世にはない。
それでも、自分の言葉を持ちたい。

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